Pain



涼しくなってきた風は秋の気配を漂わせて、澄んだ空気を運んできた。
…にも関わらず爽やかさとは無関係に満員御礼、大量の妖怪が一行を取り囲んでいた。

「しつっこいったら!」

がジープの前でヒラヒラと大きな薄い金属の扇を操り、次々と敵を切り裂いていく。
はジープの中で伏せながらその様子を盗み見ていた。

前から現れる敵に夢中になっていたの耳にの悲鳴が響く。

「きゃ〜!」

「お姉様!?」

一匹の妖怪がを盾に取り、不敵な笑みを浮かべた。
妖怪の腕に爪を立て、首に回された手を解こうと必死にもがいている。

「コイツを助けたきゃ武器を捨てて経文を渡せ!」

芸のない悪あがきにうんざりする。かといって、を人質にされているのを放っておく一行ではなかった。

「もしかして…俺らに喧嘩うってる?」

「もしかしなくてもそうですよ、悟浄。」

穏やかな微笑みが嘲笑に変わり、彼を本気で怒らせた事に気付いた妖怪が怯えた表情を見せた。

「誰が始末するんだ?」

「私が殺る。」

有無を言わせないの言葉に一行が苦笑した。
一歩、一歩とが近くと妖怪も下がって、が苦しそうな表情を見せた。

「…それで勝ったつもり…?」

「何?」

の言葉に妖怪が怪訝そうに眉を釣り上げる。

「"それで勝ったつもり?"、って言ったの。」

勢いよく投げられた扇が妖怪の顔面に命中。
怯んだ瞬間に妖怪の腕から抜け出したその瞬間に持っていた短刀がの手の甲を掠めた。
赤い線が浮かび、血が球を結んで流れる。

「!」「お姉様!」


八戒とが同時に叫んで、地面に座り込むに駆け寄った。

妖怪に向かって振り下ろされた扇と、妖怪の断末魔の悲鳴が重なる。


「取りあえず止血を。」

「だ〜いじょうぶよ、これくらい!ぃたっ!」

八戒がそっと手を掬った動作ですら顔をしかめた。
少し傷が深いのだろうか。
気を練って、の傷口に当てた。
柔らかな光が、の手に溶け込むと同時に流れていた血が止まった。

八戒との口から安堵の息が漏れた。

「取りあえず、応急処置ですから。しばらくは動かさないでくださいね?」

が無言で頷き、の方を見やる。

「お姉様…ごめんなさぁい。」

今にも泣きそうなが手を顔の前で振って心配しないで、と言う。

「!」

八戒からお叱りの一言が。

「あ、ごめんなさい!」

念の為に包帯を巻いて、傷口を保護する。
最低でも一週間の安静を言い渡されるが、は幾分か不服そうな顔をした。


怪我なんぞ一行からしてみれば日常的な物で、三蔵達もあまりの怪我を気にしなかった。
ただ一人…八戒を除いて。

の手を見ると僅かながら眉を寄せる。
ほんの一瞬で、あとは穏やかな笑顔に変わりは無い。
だが、どこか冷たい態度に不安が募る。
が怪我を負ってから3日後。


「八戒さん。何に怒ってるの?」

怪我なんて大したこと無いのに、と巻いていた包帯を外して手を翳す。
薄っすらとかさぶたが残る以外は綺麗な手だ。

「怒ってなんかいませんよ。」

目を閉じた笑い方に、が目を細めた。

「目を見て。思ってる事があるんじゃないの?」

ジッとたまおの大きな瞳に見つめられて、八戒が観念したように吐息を漏らした。

「すみません、隠していたつもりだったんですが…。」

適いませんね、と弱々しく笑う八戒に、当然でしょ、と返す。

「守りきれなくて…申し訳ありませんでした。僕が注意を払っていれば。」

も元は妖怪の居ない世界で育った。
だが自分たちの手を煩わせまいとを守ろうと必死に頑張っている。
しかし、不完全なのは仕方ない事で、一行のサポートがどうしても必要になる。
そして数日前のの怪我。


八戒は自分がもっと彼女たちを気に掛けていれば、に怪我なんか負わせずに済んだのに…と自分を責めていたのだ。


「すみませんでした。」

包帯の無いの手に優しく口付け、愛おしそうに包む。

「誰の所為でもない。ただの怪我よ。」

の肩に額を置いてたまおを抱きしめる。
子供をあやすようにポンポンと八戒の背中を叩き、愛おしそうにに見つめる。


「良かった、お姉様達仲直りしたみたい。」

「八戒の空気、怖かったもんな。」

「コレで一安心…だな。」
そっとドアの隙間から二人を見守る(?)と悟空と悟浄の姿があった。




               後日


「見物料、1人2500円頂きます。」

爽やかな笑顔で八戒が悟空と悟浄に取り立てを行ったのは達の知らない所でだった。
彼ら二人の青い顔は、秋晴れの大空にも負けなかったとか…。



==================================あとがき=========================================

瑞音お姉さまに捧げる小説第2弾!
ちょっと手を怪我されたようなので、お見舞いとして押し付けました^^
書くのに必死です。
楽しんでかけましたよ(笑)
暇つぶしにでもなったら良いな、と思います。



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