[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
貴方を捕まえたと思ったのに… 煙草の煙の様に 手から逃げる 捕まえようとしても 捕まらない 私の愛しい人…悟浄へ 紅玉の髪飾り 空は晴れて、まだ少し暑さの残る今日。 隣りには鬱陶しいくらい長く、暖色の典型的な紅い髪。 せっかく一人で散歩しようと思ったのに、台無しだ。 「春華~、これからどっか…」 「触るな。」 誘いに乗じて頭に手を乗せる悟浄に腹が立つ。 ビックリしてパッと手を離す。 今の私は三蔵以上に機嫌が悪い。 「な…何かあったワケ?」 「別にぃ?」 わざとらしく語尾を上げてそっぽ向く。 自分でも可愛く無いなぁ…て思うけどさぁ、嫌なんだよ。 解ってよ…悟浄。 な~んて、河童には無理か(笑) 悟浄が足を止めたのが気配でわかった。 だけど、フラ~と何も考えずに歩き続ける。 この旅で運動不足にはならないけど、無性に身体を動かしたい!! …そんな気分。 村外れ。誰かに見捨てられた様な教会が建っていた。 虚しく、朽ちていくだけの様な…。 何で中に入ったんだろう、って思うくらいに勝手に足が進んだ。 懐かしい空気。心地良い静けさ。 中に足を踏み入れると、冷たい空気にヒヤリとする。 埃を被った聖母像が優しく春華を見つめた。 歩を進めて、聖母像の前の広い場所で羽衣を纏うと、 シャラシャラと足首でアンクレットが高い音を奏でる。 何でだろ、妙に落ち着く。 「悟浄の馬鹿…。」 いつもの事なのに…何で悲しいんだろう? 他の女の人を抱いた手で触れないで! ソレが『悟浄』を否定する事だと解ってるけど、辛いよ。 『知ってる』だけで、『見た』事は無かったから赦せてた。 今は私だけを見てくれてると思っていたのに。 だけど…見てしまったから。 ゆっくりとリズムを刻み、舞い始める。 静かな祈りを届ける様に。 どれくらい経ったのか。 幾分か落ち着いて来た。 『悟浄…怒ったかな?』 「悟浄…の馬鹿。」 「お呼びですか、お姫さま?」 教会の中に、悟浄の声が響く。 「悟浄ぉ!?」 扉の所に背を預けて、長い足を持て余したように組み立っていた。 「なん…で、いるのよ!」 「春華チャンが呼んだんでショ?」 コツコツと足音が響く。 悟浄が近付く度に春華も下がる。 「…な~んで下がるワケ?」 「触って欲しくないから。」 「は?」 間抜けな顔で聞き返す。 一瞬、何を言われたのか解らないと言う風に。 足が勝手に後退していく。 コンパスの差か、あっという間に距離が縮まる。 すっごい悔しい。 「何か理由でもあンの?」 言葉が出ない。 目を合わせるのを避けると、ムッとした表情で春華を壁へと追い詰める。 確実に怒ってる。 「ただ…嫌なだけよ…。」 声を搾り出すように答えると…悟浄を取り巻く空気が一気に冷たくなった気がした。
グッと手首を掴まれる。 「笑えねぇ冗談は度が過ぎると、いくら温厚な俺でも怒るゼ?春華チャン。」 「…のお…手でさ…ないで。」 「は?」 クルッと手首を回して、掴んでいた悟浄の手首を手刀で払う。 ドンッと悟浄の胸を押し、距離を作る。いつもの悟浄ならビクともしないのに、簡単に下がった。 グイッと目に堪った涙を拭って、悟浄を睨つける。 「『他の女を抱いた手で触らないで!』って言ったの。」 精一杯の虚勢が崩れそう。 鋭い目で睨まれると恐ろしくなる。 こんな時でも悟浄が格好良く思えるのが不思議だった。 感情的になりつつも、冷静な目で見ている自分。矛盾してるけど、本当。 「ぃゃ…いつ俺が春華チャン以外の女を抱いたよ? 今は春華一筋だぜ?と頭を掻いた。< 「…。」 言いたくない。言えば嫌われるから。でも・・・ 鬱陶しいと想われるのが怖い。 ジッと互いを見据え、悟浄が先に目を逸した。 「言いたくない…か。なら、仕方ねぇな。じゃぁな。」 その言葉の意味するのは”関係の終わり” 意味を理解して、胸が抉られるような痛みが襲う。 一行の下にいられないなら私の居場所は無くなる。 【此処は私の世界ではないから】 春華を威圧するように立って居た悟浄が、スッと踵を返して扉へと向って行った。
その後ろ姿さえも綺麗過ぎる。 「っっっ!!今朝!」 聖堂に似つかわしくない大きな声を突然出した春華に驚いたのか、悟浄がピタリと足を止めて振り返った。 ジッと春華を見つめてくる。 「…恋とか愛とか、そういうの悟浄が嫌うの知ってるし、束縛したら嫌われちゃうのが怖かったのよ!! それでも独り占めしたくて、昨日も…夜中に出て行ってから帰って来ないし。 心配して待ってたら女の人と手を振って別れた後、帰って来て…。 悟浄に振り回されてばっかりじゃん!・・・んなの・・・悔しい!」 一気に吐き出すように叫び、涙がぽろぽろ零れて、最後なんか言葉になっていたかどうか疑問だった。 キョトンとした顔で春華を見て居る。 呆れられるかもしれない、嫌われてしまうかも。 けど、どうせ嫌われるなら言ってしまいたい。 ボロボロと涙が零れて、教会の渇いた床に染みが出来た。 「春華チャン、何か誤解してね?俺、女なんか抱いてねぇぜ?」 「へ???だって…今朝…。」 手を振って、楽しそうに別れた女の人は何? 「ぃゃ…アレは…。」 「なに?」 照れくさそうに頭を掻きながら、観念して溜息を一つだけ吐いた。 「…はぁ。この町な、宝石の加工が有名な町なんだとよ。 ほら、いっぱい店やら着飾ったおネェさん達がいたろ?」 いつものオドけた顔で、ウィンクを投げてよこす。 繁華街を通る時は一人になりたくて下ばかり見てたから…。 「見て無かった…。」 「…ったくよ~。ウチのお姫さまにも困ったもんだ。 で、コイツを作ってたんだよ。」 ヒュッと投げて寄越された袋を開けると、紅い石で飾られた髪飾りが入っていた。 「これ…?」 「春華に何かあげた事なんか無かったしよぉ、せっかく恋人になれたんだし、何っかプレゼントすっか?って思ったワケ♪ お気に召しましたか、春華姫?」 「ん♪」 紅い色が悟浄の髪と同じだった。 いそいそと髪に付けると、耳の上でシャラシャラと高い音がする。 「どぅ?」 クルリと回ると髪飾りも揺れて、キラキラと光った。 その手を悟浄が掬うように手を取り、そっと口付けをした。 顔が赤くなるのが自分でも解る。 けど…格好良過ぎるよ、悟浄。 「ゴメン…悟浄。」 俯いて赤くなった顔を隠そうとする。 見られたくないよ、こんな顔。 おもっきり拗ねたような顔で春華から目を逸す。 「誤解されて傷付いたっつーの。」 「どぅしたら許してくれる?」 ん~…と暫く考る素振りをして、何か閃いたように笑った。 「じゃぁさ、春華チャンからキスして?」 「う~・・・今回だけだかんね!///」 大好きな悟浄になら何度でもって言いたいトコだけど。 そんなの絶対に言ってやんない。 まぁ、【言えない】ってのが正しい言い方なんだけどね。