貴方を捕まえたと思ったのに…

煙草の煙の様に 手から逃げる

捕まえようとしても   捕まらない

私の愛しい人…悟浄へ



    紅玉の髪飾り



空は晴れて、まだ少し暑さの残る今日。
隣りには鬱陶しいくらい長く、暖色の典型的な紅い髪。
せっかく一人で散歩しようと思ったのに、台無しだ。

「〜、これからどっか…」

「触るな。」

誘いに乗じて頭に手を乗せる悟浄に腹が立つ。
ビックリしてパッと手を離す。
今の私は三蔵以上に機嫌が悪い。

「な…何かあったワケ?」

「別にぃ?」

わざとらしく語尾を上げてそっぽ向く。
自分でも可愛く無いなぁ…て思うけどさぁ、嫌なんだよ。
解ってよ…悟浄。
な〜んて、河童には無理か(笑)
悟浄が足を止めたのが気配でわかった。

だけど、フラ〜と何も考えずに歩き続ける。
この旅で運動不足にはならないけど、無性に身体を動かしたい!!
…そんな気分。

村外れ。誰かに見捨てられた様な教会が建っていた。
虚しく、朽ちていくだけの様な…。

何で中に入ったんだろう、って思うくらいに勝手に足が進んだ。

懐かしい空気。心地良い静けさ。

  中に足を踏み入れると、冷たい空気にヒヤリとする。
  埃を被った聖母像が優しくを見つめた。
  歩を進めて、聖母像の前の広い場所で羽衣を纏うと、
  シャラシャラと足首でアンクレットが高い音を奏でる。

  何でだろ、妙に落ち着く。
  
  「悟浄の馬鹿…。」
  
  いつもの事なのに…何で悲しいんだろう?
  他の女の人を抱いた手で触れないで!
  ソレが『悟浄』を否定する事だと解ってるけど、辛いよ。
  『知ってる』だけで、『見た』事は無かったから赦せてた。
  今は私だけを見てくれてると思っていたのに。
  だけど…見てしまったから。

  ゆっくりとリズムを刻み、舞い始める。
  静かな祈りを届ける様に。
  
  どれくらい経ったのか。
  幾分か落ち着いて来た。

  『悟浄…怒ったかな?』

  「悟浄…の馬鹿。」

  「お呼びですか、お姫さま?」

  教会の中に、悟浄の声が響く。

  「悟浄ぉ!?」

  扉の所に背を預けて、長い足を持て余したように組み立っていた。

  「なん…で、いるのよ!」

  「チャンが呼んだんでショ?」

  コツコツと足音が響く。
  悟浄が近付く度にも下がる。

  「…な〜んで下がるワケ?」

  「触って欲しくないから。」
  「は?」

  間抜けな顔で聞き返す。
  一瞬、何を言われたのか解らないと言う風に。

  足が勝手に後退していく。
コンパスの差か、あっという間に距離が縮まる。
すっごい悔しい。
 
  「何か理由でもあンの?」

  言葉が出ない。
  目を合わせるのを避けると、ムッとした表情でを壁へと追い詰める。
  確実に怒ってる。
 
  「ただ…嫌なだけよ…。」

  声を搾り出すように答えると…悟浄を取り巻く空気が一気に冷たくなった気がした。
グッと手首を掴まれる。 「笑えねぇ冗談は度が過ぎると、いくら温厚な俺でも怒るゼ?チャン。」 「…のお…手でさ…ないで。」 「は?」 クルッと手首を回して、掴んでいた悟浄の手首を手刀で払う。 ドンッと悟浄の胸を押し、距離を作る。いつもの悟浄ならビクともしないのに、簡単に下がった。 グイッと目に堪った涙を拭って、悟浄を睨つける。 「『他の女を抱いた手で触らないで!』って言ったの。」 精一杯の虚勢が崩れそう。 鋭い目で睨まれると恐ろしくなる。 こんな時でも悟浄が格好良く思えるのが不思議だった。  感情的になりつつも、冷静な目で見ている自分。矛盾してるけど、本当。 「ぃゃ…いつ俺がチャン以外の女を抱いたよ? 今は一筋だぜ?と頭を掻いた。< 「…。」 言いたくない。言えば嫌われるから。でも・・・ 鬱陶しいと想われるのが怖い。 ジッと互いを見据え、悟浄が先に目を逸した。 「言いたくない…か。なら、仕方ねぇな。じゃぁな。」 その言葉の意味するのは”関係の終わり” 意味を理解して、胸が抉られるような痛みが襲う。  一行の下にいられないなら私の居場所は無くなる。  【此処は私の世界ではないから】 を威圧するように立って居た悟浄が、スッと踵を返して扉へと向って行った。
その後ろ姿さえも綺麗過ぎる。 「っっっ!!今朝!」 聖堂に似つかわしくない大きな声を突然出したに驚いたのか、悟浄がピタリと足を止めて振り返った。 ジッとを見つめてくる。 「…恋とか愛とか、そういうの悟浄が嫌うの知ってるし、束縛したら嫌われちゃうのが怖かったのよ!! それでも独り占めしたくて、昨日も…夜中に出て行ってから帰って来ないし。 心配して待ってたら女の人と手を振って別れた後、帰って来て…。 悟浄に振り回されてばっかりじゃん!・・・んなの・・・悔しい!」 一気に吐き出すように叫び、涙がぽろぽろ零れて、最後なんか言葉になっていたかどうか疑問だった。 キョトンとした顔でを見て居る。 呆れられるかもしれない、嫌われてしまうかも。 けど、どうせ嫌われるなら言ってしまいたい。 ボロボロと涙が零れて、教会の渇いた床に染みが出来た。 「チャン、何か誤解してね?俺、女なんか抱いてねぇぜ?」 「へ???だって…今朝…。」 手を振って、楽しそうに別れた女の人は何? 「ぃゃ…アレは…。」 「なに?」 照れくさそうに頭を掻きながら、観念して溜息を一つだけ吐いた。 「…はぁ。この町な、宝石の加工が有名な町なんだとよ。 ほら、いっぱい店やら着飾ったおネェさん達がいたろ?」 いつものオドけた顔で、ウィンクを投げてよこす。 繁華街を通る時は一人になりたくて下ばかり見てたから…。 「見て無かった…。」 「…ったくよ〜。ウチのお姫さまにも困ったもんだ。 で、コイツを作ってたんだよ。」 ヒュッと投げて寄越された袋を開けると、紅い石で飾られた髪飾りが入っていた。 「これ…?」 「に何かあげた事なんか無かったしよぉ、せっかく恋人になれたんだし、何っかプレゼントすっか?って思ったワケ♪ お気に召しましたか、姫?」 「ん♪」 紅い色が悟浄の髪と同じだった。 いそいそと髪に付けると、耳の上でシャラシャラと高い音がする。 「どぅ?」 クルリと回ると髪飾りも揺れて、キラキラと光った。 その手を悟浄が掬うように手を取り、そっと口付けをした。 顔が赤くなるのが自分でも解る。 けど…格好良過ぎるよ、悟浄。 「ゴメン…悟浄。」 俯いて赤くなった顔を隠そうとする。 見られたくないよ、こんな顔。 おもっきり拗ねたような顔でから目を逸す。 「誤解されて傷付いたっつーの。」 「どぅしたら許してくれる?」 ん〜…と暫く考る素振りをして、何か閃いたように笑った。 「じゃぁさ、チャンからキスして?」 「う〜・・・今回だけだかんね!///」 大好きな悟浄になら何度でもって言いたいトコだけど。 そんなの絶対に言ってやんない。 まぁ、【言えない】ってのが正しい言い方なんだけどね。